スプリング・アンド・フォール  Spring and Fall


音楽
アントン・ドヴォルザーク
弦楽セレナード ホ長調 作品32

振付・衣裳
ジョン・ノイマイヤー


世界初演
1991年4月28日 二ジンスキー・ガラXVII ハンブルク ハンブルク・バレエ
第1、4、5楽章
初演時のキャスト
ジジ・ハイアット、マニュエル・ルグリ


全曲の世界初演
1994年10月10日 ジュネーヴ ジュネーヴ大劇場バレエ
初演時のキャスト
イザベラ・パドヴァニ、ジョルジョ・マンシーニ、ガブリエル・マンフレディーニ、ドミニク・シェッツェル


ハンブルク初演
1995年5月21日 二ジンスキー・ガラXXI ハンブルク・バレエ
初演時のキャスト
 I モデラート
マニュエル・ルグリ
キム・デイヴィッド・マッカーシー、イリ・ブベニチェク
*

II ワルツのテンポで

ベティーナ・ベックマン
ヴァネッサ・タンブリ、イリ・ブベニチェク
*
エミリア・ジョヴァノヴィッチ、ヤコポ・ムナーリ
ラウラ・カッツァニガ、ヨハン・ホルテン
ジョエル・ブーローニュ、アレッサンドロ・ティブルツィ
カリン・ブレナン、エヴァ・ペレス

III スケルッツォ、ヴィヴァーチェ
マニュエル・ルグリ
キム・デイヴィッド・マッカーシー
イリ・ブベニチェク*、ヤチェク・ブレス、ヨハン・ホルテン、ウラディミル・コシチュ、ヤコポ・ムナリ
大植慎太郎、ヤン・デ・シンケル、アレッサンドロ・ティブルツィ
ベッティーナ・ベックマン

IV ラルゲット
ベティーナ・ベックマン、マニュエル・ルグリ

V フィナーレ、アレグロ ヴィヴァーチェ
全員

* オットー・ブベニチェク怪我のため代演


1997年来日公演時のプログラムに掲載されているノイマイヤーの解説

1991年4月、仕事をしている最中にードヴォルザークの弦楽セレナーデの振付を始めたところでしたー私の頭に、“スプリング・アンド・フォール(Spring and Fall)”という言葉が浮んだのです。それは何かのタイトルだったかな、と思いました。そして、イギリスの抒情詩人、ジェラード・マンリー・ホプキンズがある詩にそんなタイトルをつけていたのを思い出しました。彼はその詩を、1988年の秋、9月に創ったことを、私は後に本で読みました。
ドヴォルザークは彼のセレナーデを、1875年の春、5月に作曲しています。時間的にはそれほど隔たってはいないのです。

“スプリング・アンド・フォール”は、英語としてはいろいろな意味に取れるタイトルです。直訳なら“跳躍と落下”、あるいはもっと動的かつアクティヴに“跳べ、そして降りよ”と訳すこともできます。基本的に、モダン・ダンス作品あるいはニュー・ダンス作品の理想的なタイトルです。“落下と回復 Fall and Recovery”は、そこからドリス・ハンフリーが踊りの動きを展開した2つの基本原理です。彼女はそれを、“二つの死を結ぶ円弧”と名付けました。二つの死とは、動きが止まっていることと、重力に身を任せることです。彼女はこの原理の上にそのテクニックを築き、それをホセ・リモンが後にさらに発展させました。

“スプリング・アンド・フォール”には、つぼみが開き、枯れ葉が落ちる時の“春と秋”という意味もあります。この二つの言葉には、ドイツ語と違って英語では、別な意味が非常にたくさんあって、文章にメタフィジックな次元をあたえますが、これをホプキンズもきっと考えたのでしょう。“スプリング”には、泉、噴水、バネ、根源という意味があり、また“フォール”には墜落、滝、崩壊、そのほか堕罪と訳すこともできます。この二つの言葉は、一年の変わりにも、人生の移り変わりにも用いられます。“二つの死を結ぶ円弧”、そして人類史(最初の人間の堕罪以後の歴史)でもあります。ホプキンズがつけた“スプリング・アンド・フォール”というタイトルには、これらすべての意味が込められているのです。
となりのホールででは、私たちのリハーサルと平行して、アントニー・チューダーの作品の稽古が行われています。彼は死の3年前、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲に振付けました。彼はそれを、“The Leaves are fading”と名付けました。“葉は色褪せて”という意味です。私のタイトルと同じ考えです。それはドヴォルザークと、その音楽における似たような気分がそうさせるのでしょう。彼は自分の作品を、私と同じように“スプリング・アンド・フォール”と名付けることもできたでしょう。
年齢という見地から、チューダーは、愛、友情、春の感じ、若さに関する作品を仕上げました。それは、タイトルの哀愁の響きとは反対に、みずみずしさと明暗にあふれた作品であり、雰囲気に満ちたこのバレエの逸話的性格は副次的なものに過ぎません。舞台装置は、抽象化された風景の逸話、木々、花、葉、自然です。

ドヴォルザークは自然を愛しました。ホプキンズにとっても自然は大切なものであり、その日記は詳細で細かい自然観察でいっぱいになるほどでした。雲の形、木々、植物、逆巻く水の描写・・・。“スプリング・アンド・フォール”です。

自然ー人生の鏡としての自然。それは私のテーマでも、このバレエのテーマでもありません。私のバレエの出発点は、まったく踊り手と踊りにあります。ホプキンズの詩の中の小さな少女は、自分ではそうとは知らず、まったく本能的に、自分のはかなさを嘆いています。これは私の作品の意図ではありません。私を感動させるのは、ほとんど抽象的に並べられた言葉の意味の多様性です。私の頭に再三再四浮んでくるのは、この簡潔ながらも多くのことを連想させる、ダンスのようなタイトルです。私はホプキンズの非凡な文章構成、言語構成、彼の言葉の力、彼のリズムが気に入っています。この詩は“跳躍するリズム”の中にあります。何という言葉の力動性でしょう! 彼の詩は同時代人に理解されませんでした。彼の詩は、あまりに実験的であり、個性的でした。この詩の形式は人を魅了しています。言葉と構文の自由な処理、言葉の実験、響きとリズムの名人芸的な扱い、密度の濃いテクスチュア、そして音楽的な構造。ホプキンズは、音楽や作曲というものの本質にかかわった人です。彼は、和声学と対位法について本を2冊書いています。彼はみずから歌曲のメロディーも書いています。彼の本来の音楽は詩でした。

言葉の音楽、動きの言葉、音楽の動き、動いている音楽ーそして踊り!

これが今回のテーマです。私はこのバレエを“スプリング・アンド・フォール”と名づけます。
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ジェラード・マンリー・ホプキンズについてはWikipediaのこちらを。残念ながら目下のところ日本語のページはありません。

Spring and Fall   to a young child   written by Gerard Manly Hopkins

MARGARET, are you grieving
Over Goldengrove unleaving?
Leaves, like the things of man, you
With your fresh thoughts care for, can you?
Ah! as the heart grows older
It will come to such sights colder
By and by, nor spare a sigh
Though worlds of wanwood leafmeal lie;
And yet you will weep and know why.
Now no matter, child, the name:
Sorrow’s springs are the same.
Nor mouth had, no nor mind, expressed
What heart heard of, ghost guessed:
It is the blight man was born for,
It is Margaret you mourn for. 


(S)